社長メッセージMessage
「なにができるか」よりも「どうあるべきか」を考える
〜「サーキュラーエコノミー」と「循環型社会」の比較から〜
「サーキュラーエコノミー」(循環型経済)という言葉が2015年に欧州で提唱され、世界で広まっています。
一方、日本では2000年ごろから「循環型社会」という言葉があり、着実に法整備や社会での普及が進められてきました。
この両者は何が違うのでしょうか。
前者は、「資源を循環して使用することで新たな付加価値を創出し、消費や廃棄の量を極限まで減らしながら『経済成長も実現する』」概念です。
一方、後者は「廃棄物を有効利用することによって『ごみを減らす』」概念です。そこでは「ゼロエミッション(廃棄物ゼロ)」という言葉も生まれ、多くの企業や自治体によってスローガンとして掲げられました。
バックキャスティング思考でみれば「『資源』を使い続ける経済成長(+)」と「『廃棄物』を捨てない環境負荷低減(―)」という目指す社会像の視野が異なるのです。
日本でも「循環型社会」において3R(Reduce:ゴミを減らす、Reuse:製品として再利用、Recycle:資源に戻して利用)という資源を有効利用する概念はあるのですが、盛んに行われたのは「中古品の売買や燃料等の利用」でした。その経済価値は元の製品よりも下がるので、「廃棄しない」ことが大切な価値観でした。
また、法的には「値段がつくかどうかが廃棄物の判断基準」であるため、1円で流通させる「ごみにしない」ことが目的の取引もありました。
ここでの取引は、バリューチェーンにおける「商品の使用後の段階」が対象であり、「廃棄物としての処理(捨てる側がお金を払う)を避けること」が重視されました。
一方、「サーキュラーエコノミー」では、バリューチェーンにおける「商品の設計や材料の選定の段階」から「修理や部品・原料化で利用し続け」、「消費するエネルギーを減らす」ことが重視され、それにより「製造コストを減らし、経済価値を生み出す」ことを目指しています。
具体的には、「循環型社会」において使用後のペットボトルは文房具やシートなど単価の低い製品へ再生利用する(カスケード・リサイクルといいます)のが主でした。
ペットボトルに再生する実証試験も行われましたが、「透明度が落ちる」「衛生上心配」といった理由で普及は不可能と判断されたこともあったのです。
それが現在は多くの化成品・食品メーカーでペットボトルに再生する(水平リサイクルといいます)取り組みが進められています。
まだ、再生コストの低減や使用後ペットボトルの回収網の構築など課題は残るものの、技術改良や普及による量産効果、原油の高騰による新品材料の値上がりなど諸条件を背景に、近い将来に経済メリットが出てくることが期待されます。
また、タイヤは使用後に切断して燃料にするしか利用方法がありませんでしたが、補修・再生して使用し続けることで継続的に課金するビジネスモデルが出てきています。
こうした「めざす姿を掲げ」、「それに合致した目標の達成を目指す」ことで、経済や法律の仕組みが変わり、技術革新やライススタイルの変革が引き起こされます。
日本の社会や企業では「現在目の前にある問題に対して使える(使えそうな)技術で『できること』を前提に現実的な問題解決」を得意としてきました。
この思考方法を「インサイドアウト思考(自分達に『できること』から発想する)」といいます。
一方、欧州のやり方は「本来『どうあるべきか』のビジョンを掲げ、それを実現するためのルールや経済の仕組みを整えて技術革新を誘発」してきます。
この思考方法を「アウトサイドイン思考(社会が『どうあるべきか』から発想する)」といいます。
そして、後者の方が結果として大きな変革を実現していきます。
日本のスタイルは「先行型」ですが、「逃げ切り」まで至らず、欧州の「追い込み型」に抜かれ、逆に「追いかける側」に回るリスクがあるのです。
せっかくの問題解決型で開発した技術やビジネスモデルが「時代遅れ」とならないようにこれからのSDGs時代(Transforming our World「私たちの世界を変革する」と掲げられた世界観)では、私たちも「アウトサイドイン思考」で世界をリードしていきたいですね。